「そういえば、昨日結局聞かなかったけどさ」




学校へ向かう道すがら。





問いを投げ掛けたのはあたし、高良唯。





「なんだね、高良クン」





あたしの問いに、誰の真似だか知らないけれどとりあえずウザイ返答をしたのは、“自称ユーレイ”神谷雫。





「なんであたしに取り憑いてんの」

「それから、『なんで唯には俺が見えるのか』だね」





車がひっきりなしに行き交う国道沿い、緩やかな坂道を上るあたしの目の前。





雫はあたしの真正面を陣取って、視界を遮るようにふわふわ浮いている。





車の運転手さんがこの状況を見たら、昼頃にはクラスで大ニュースになってることだろう。学校近くの国道で車10台が絡む玉突き事故発生、とか。




そこをいくと、今歩いているあたしの真横に通る都市部へ向かう大通りは極めて順調に流れているし、走行する自動車たちはそれなりの安全運転で、わき見運転をするような様子もなく、いつも通りといった感じ。




それを見ていると、改めてこの神谷雫というユーレイは、あたし以外には全く見えていないのだということを再認識させられる。





「なんか意味深なコト言ってたよね、偶然だとか、相性だとかなんとか」





いつかのパン屋での会話を思い出して、雫を問いただす。






「どっち聞きたい?『偶然』と『相性』」






雫はふわりとあたしの横に降り立って、肩を並べて歩き出す。無害そうな笑みを顔に貼り付けて。





「んー、じゃあ『偶然』の方」





あたしの記憶が正しければ、「偶然」だと雫が言ったのは、あたしに取り憑いているコトの方だったはず。






雫は、偶然あたしに取り憑いている、と。






「そーゆーコトになるね、平たく言えば」

「平たくじゃなく、詳しく言ったらどうなんのよ」





隣を歩く雫の顔を覗き込んで、少し強めに質問する。





「こちとら他人に勝手に居候されていい加減ストレスたまってんのよ」

「その割に鼻唄うたいながら料理作ってくれるじゃん」





「うるさい。口ごたえするユーレイは除霊よ、除霊」

「ちょっと!言い方キツくね!?」





「この辺だと熱日神宮かな。精々苦しんで成仏なさい」

「お前なー!いいか?俺は取り憑いてるんじゃねぇの!」





頬を膨らまして抗議する雫。





取り憑いてるんじゃない。
じゃあ、なんなの、キミは。





そう言おうとして再び雫に顔を向けたあたし。





雫は結構真剣な顔をして、 あたしの顔をピッと指差して、こう言った。






「俺はね、守護霊なの、唯の守護霊!」