「ふぁー。腹一杯ですシェフぅ…」

「はいお茶」





手渡したお茶をくいっと飲み干して、雫が再び満足げに息をついた。





その雫の手元を見ながら、ふと呟く。





「手のトコだけ…透けてないね」





雫はユーレイ。その全身は半透明で、今も雫の体の向こうのテレビが透けて見える。





なのに、雫が持つコップと触れ合う右手の部分、そこだけ実体化しているというか─。健康的な肌色がはっきりあたしの目に写っている。





「あァ…うん、そう。そういう仕組みなのよ」

「また“そういうシステム”ってヤツ?」





「そう。そういうヤツ」

「透けてない部分は触れるってワケ?」





「んー、そうだな。そんな感じ」

「歯切れ悪いね。またムズカシイ理屈があるってコト?」






あたしが面倒そうに尋ねると、雫は空のコップをポンポンと手の上で跳ねさせながら、あたしのいかにもウサン臭いといった表情を見て、クスリと笑う。






「なによ、そのヒトをバカにした表情は」

「イヤイヤ。ただ、さっきは軽く説明するとか安請け合いしたけど、 理解してもらえるか心配なだけ」






「それをバカにしてるって言うんでしょ。どうせバカですよ、あたしは」


「んー、そもそも理解するしない以前に、信じてもらえるかが不安なんだよ」





「ユーレイなんか見えちゃったせいで、もう大抵のことには驚かない自信あるけどね」

「だといいんだけど」






雫がコップを机に置くと、それとほぼ同時くらいに雫の手がすうっとまたその存在感を減らし、身体と同じような半透明に戻った。






「…変なの。透けてなくても、他の人には雫は見えないんでしょ」

「まぁ、そうだな」






「じゃあなんで透けてんの」

「ちゃんと理由があるんですよ、高良さん」






「理由ってなによ?」

「今言ったでしょ。唯に分かるように説明する自信はないな」






のらりくらりと質問をかわす雫に、だんだん苛立ってきたあたし。






「なにそれ。それじゃああんた、一生オカルトのままだよ」

「ちょ…何いきなり怒ってんの?そう言われても困るんだってば」







困ったように両手を挙げる雫。文字通り御手上げだよ、とでも言いたそうだ。






「その辺の事情をニンゲンには教えちゃいけないってワケ?ユーレイさん」

「いや、そういうワケじゃないけど」





「なら教えてよ。長くなってもいいから。あたしが取り憑かれてるんだから、あたしには知る権利があるの」

「ホントに長いよ?長くてつまんない話だけど大丈夫なの、唯?」







「つまんないかどうかはあたしが決めるコト。明日になったらあんパン買ったげるから。ホラ、さっさとしゃべる」

「しょうがないなぁ…。分かったよ」






あたしの詰問に観念したのか、それとも引き下がりそうにないあたしの様子を見て面倒になったのか。はたまた好物のあんパンに釣られたか。






渋々、いやいやといった感じで、ようやく雫が説明を始めた。