カチャカチャ。





カチャリ。





鍵を開けて、靴を脱ぐ。





フローリングの廊下をピッタリ6歩進むと、キッチンandリビング。





リビングの36インチテレビの前、三人がけのソファーに通学カバンを放り投げ。





シンクで軽めに手を洗い、夕飯の支度に取りかかる。









高良家の家族構成は、長女・高良唯。







以上。







この家に住むのは、あたしひとりだ。







両親は、7年前に事故で他界。






それはあまりに一瞬の出来事で。






あっという間に、あたしはひとりぼっちになった。







ちょっと口うるさいけど、綺麗で明るいお母さん、






おっとりしていて無口だけど、いつもにこにこしていたお父さん。








ふたつの太陽をいっぺんに亡くした当時のあたしは、10歳。








それからしばらく、親戚の家に厄介になった。






親戚のみんなは、とても良くしてくれて、それはそれで感謝の言葉もないくらいだけれど。






当時のあたしは、不安と悲しみと恐怖で、毎日毎日泣いていた。






涙がすっかり枯れ果てて、ようやく前を向いたのが、中学生になった頃。






いつまでもふさぎこんでいたら、天国のふたりが心配する。





親戚のみんなにも、甘えてばかりはいられない。





子供ながらに、決意した。







高校進学を期に、無理を言って一人暮らしを始めた。かつての高良家、つまりは、この家をどうしても放っておけなかったのだ。





学費は自分で稼ぐと言ったのだけど、我が子のように可愛がってくれた親戚のおじさんが、どれだけ断っても学費と生活費を振り込んでくれる。





“今は僕がキミの父親代わりだ。素直に甘えなさい”





そう言ってニコリと微笑んだおじさん。





死んだお父さんの弟さん。





その笑顔の端に、お父さんの面影を見た。






月並みな言葉しか思い付かないけれど。






ホントに、ホントにありがたい。







ただ、そんなおじさんも、この状況を見たらなんて言うだろう。






「おー、やっぱり1年も一人暮らししてると手 際が違うな。んん!いい匂い!」






肩の後ろからひょいと顔を覗かせる、少年姿の ユーレイ、神谷雫。






「こら、気が散るでしょ。すぐできるからテレ ビでも見てて」







男と同棲でも、ユーレイと同棲でも。







腰を抜かすだろうな、おじさんは。