「ここに来るのも久しぶりだ」
宏樹が勤めてる病院。
前は毎日の様に通ってたのに。
「さっさと検査するぞ」
私の手を掴んで引っ張るが
歩幅がかなり違うため引きずられる。
でも私は何も言わない。
車での会話が原因だろう。
宏樹は早く私に立ち直って欲しいと
思ってるのは分かる。
だから今だにアノヒトを想い続けてる
私に苛立つのだろう。
でも仕方ないじゃないか。
「ねえ、宏樹」
検査室に入る前に彼を見る。
少しやつれてる様にも感じられる顔は
拗ねているようにも見える。
「私ね。少し、ほんの少しだけど。
前に進んでるよ」
これは嘘。
だけど宏樹を安心させるための、
優しい嘘。
「だからさ。ちょっとは安心してよ」
あと私も安心させるための嘘。
実際、彼女の本性が分かるまでは
進んでたはずだ。
この嘘は宏樹を安心させるためだけど
私のための嘘でもある。
にっこり微笑むと彼も苦笑しつつ、
微笑んでくれる。

