目の前の友田の目が驚いて見開かれる。
「どうして?」と口の動きで言っているのが分かったけれど、ひどい耳鳴りでそれ以上、友田が何を言っているのか、分からなかった。
ひたすら頭を振り続けるだけの私に、友田がそれ以上何かを尋ねることを諦めたようで、無言で席を立ち、私を立ち上がらせた。
帰るのだと容易に想像がつく行動に素直に従う。
ただ、友田が席を立つ間際に桜色の紙をポケットに入れた光景が、バッサリと私に残された僅かな希望をも切り裂いたため、今の私には人として正常に機能する部分がまるでなかった。
「遅くなってゴメンね。送るよ」
低くて心地よい友田の声。
だけど、何も感じない。
あぁ、完全に感情をシャットアウトしたんだと思ったら、不思議と怖いものなんて無くなった。
それどころか、また甘い感情を抱いた自分が滑稽に思える。
こんな愚かな自分に、友田がなびく訳がないと、妙に納得する自分。
これで良かったのだと、空っぽの体に押し込んだ。
帰り道の記憶はきれいさっぱりない。
気づけば友田の部屋にいて、置かれたままの上着と自転車の鍵を手にしていた。

