「視えるんです」



……その後、先輩はゆっくりと話を始めた。

まずは、踊り場の鏡に居たあの女のこと、だ。




「あの人は、20年くらい前に首を吊って自殺したこの学校の生徒なんだ。 リボンをロープ代わりにして、あの場所で」

「……はい」




私が見た……いや視たのは、やっぱりあの人の死ぬ場面だったんだ。




「当時、『出る』と噂になり、実際に鏡に映る彼女の姿を見た生徒も居た。
だからお祓いをしたり、お札を貼ったり……色々とやって、彼女は成仏したんだ」

「え? 成仏、した……?」

「正確には、『成仏したように見えた』だね」




鏡に映ることはなく、『出た』と噂されることもなくなり、成仏した彼女を、誰もが忘れていった。

だけど彼女は、成仏していなかった。

お祓いをして、一度は上へ行きかけたけど……彼女を引き止めるモノが居た。


先輩はそう言いながら、ポケットから携帯を取り出した。
それを操作して、何やら画像を私に見せた。

その画像は……あの鏡の前で、先輩が鏡を通して自分を撮っている写真。


あの女の姿はない。

だけどその代わりに、鏡に映った男子トイレ……そこからこちらを伺う『目』があった。