「視えるんです」



ベッドを仕切っているカーテンをシャッと開いた先輩は、メガネの奥から鋭い視線を飛ばす。




「南沢さんも、簡単に信じないでください」

「あ……は、い……」




……先輩だ。
紛れもなく、本田先輩だ。

じゃあこれは夢じゃなくて、現実?
今私の首を絞めてる先生も、現実の、本物の半沢先生……?




「死ねっ、南沢っ!!」

「ぐはっ……って、なんでそうなるんですか!!」




……うん、間違いなく半沢先生だ。

この野郎……私が怖がるのを知っててやるなんて、なんて性悪なんだ。

……って、それを言ったらまた『サンキュー』とか言いそうだから、黙っておこう……。




「お前はアレだ、『軽い貧血』ってことで保健室に居るからな、午後の授業はこのままサボれ。
っつっても、あと20分ぐらいで放課後になっちまうんだがな」

「え……もう、そんな時間……」




昼休みが終わってから、もう1時間以上経つ。

そんなに私、眠り続けていたんだ……。




「担任の山ちゃんには俺から上手く言っておいたし、今授業やってる堂本ちゃんにも俺が言っておいたから大丈夫。
よかったな南沢、俺が味方で」

「……よかったかどうかはわかりませんが、ありがとうございます……」

「おう、じゃああとは本田と居ろ。 俺は仕事が山積みだ。
本田が居りゃあ、怖い目にも遭わないだろ?」

「……はい」

「じゃあな」




ポンポン、と優しく私の頭を叩いた半沢先生は、開きっぱなしだったカーテンをシャッと閉め、保健室を出て行った。

……半沢先生、私が眠ってた間に、担任の先生や授業担当の先生に、色々話してくれてたんだ。

それに、私が目を覚ますまで近くに居てくれたんだよね……。

怖い話ばかりするイヤな先生だと思ってたけど、いい先生だな……。
今度、お礼に何か甘いお菓子でも持って行こう。

そう思いながら小さな笑みを浮かべると、椅子に座った本田先輩も笑った。