「あーぁ、泣かせちゃった」
「うるせ。 お前の女なんだからお前がなんとかしろ」
「責任転嫁ですか。 まぁ、なんとかしますけど」
蓋が勝手に閉まったことに驚くことはなく、私がボロボロと涙を流していることにも焦ることなく。
本田先輩はそっと私の肩に手を置いて、もう一方の手でピアノを指差した。
「糸」
「……ふぇ?」
「細い糸、見える?」
糸。
そう言われて、ジッとピアノを見つめる。
そして……見つけた。
先輩が言うように、細い糸がある。
一方は鍵盤の蓋、もう一方は……半沢先生の、後ろ側。
「……あぁー!!」
また私は、半沢先生にからかわれたんだ!!
「おいおい本田ぁ、除霊するフリでもしろっつーの。 お前を呼んだ意味ねぇじゃん、なんでバラすんだよ」
……その言葉が、決定打。
「今日こそその首へし折ってやるー!!」
……と、そんなこんなで。
私と半沢先生は、2分ほど追いかけっこを続けたのでした。



