「視えるんです」



………

……




「先生は、もう少し休んでた方がよかったんじゃないですか?」




復帰初日の放課後、音楽室でピアノをポロンと鳴らしながら先生を見る。




「見た目は元気だからな」

「でも、力はまだ戻らないんですよね?」

「あぁ、ようやく3ってところだ。
マラソンと一緒でなぁ、1から3は比較的楽だが、8から10に行くまでがキツいんだ、コレが」

「……でも、マラソンと違って力が回復するんですから、8から10の方が元気なんじゃないですか?」

「元気になってもリハビリしなきゃ使い物にならんだろう?」

「そういうもんですかねぇ……」

「そういうもんだ」




と、そんなことを話しながら、またピアノを鳴らす。




「そういえば先生って音楽の先生ですよね」

「あぁ? なんだよ急に」

「ピアノ弾いてみてください。何かハッピーになれる曲」

「なんだ、お前不幸なのか?」

「そういうわけじゃないですけど、せっかくなら明るい音楽が聴きたいじゃないですか」




先生がピアノを弾くところなんて見たことないな。と思ったら、急に見てみたくなった。

ただそれだけの理由で先生に声をかけたら、先生は表情を変えることなく椅子に座り、鍵盤に指を置いた。




ド レ ミ ファ ミ レ ド

ミ ファ ソ ラ ソ ファ ミ




……って、童謡のカエルさんの歌じゃないですか!!

くそぅ、私でさえ弾ける曲を……。




「元気になるだろう?」

「そういうのじゃなくて」

「じゃあ、こういうの?」




と、一呼吸置いたあと、先生は鍵盤に指を滑らせた。

日本の曲ではない、どこか外国の曲のようだ。

初めて聴く曲なのに、どこか懐かしく、心が休まる温かな音楽。




「……半沢先生は、ちゃんと音楽の先生なんですね」

「まぁな」




楽譜が無いのに音を外すことはなく、先生の手から放たれる美しい音楽が、しばらくの間音楽室に響いていた。