ある考古学者とその妻

「はあぁぁ!何で私がバカ呼ばわりされなきゃなんないのよ!このモップが一人で暴走してるだけだっつーの!」

北方准教授は起き上がり、ずれた眼鏡を直しながら口ごもる。

「なっ、モップて!」

と、その時、シャッとカーテンが開き、眦を釣り上げた看護師が立っている。

「二階堂さん、意識戻られたんですね。良かったです。良かったですが、ここは病院です!静かにして下さい!」

反論する間も与えられず、雷を落とされた。
ごもっとも。
でも、こいつらが煩いんだ。
ばかやろー。



結局たんこぶが出来ただけで、CTでも異常は無く、そのまま帰された。
間抜けだわ。

今三人で駅前通りにある居酒屋に雪崩れ込み、何故だか不思議な組み合わせで飲んでいる。

「とりあえず、カンパーイ。」

山内さんのだらりとした音頭で飲み始めた。
何が乾杯だよ。
私は仕事の途中だったような気がするんだけどね。

「て言うか、山内さんと北方准教授はお知り合いなんですか?」

運ばれて来たキンキンに冷えた生ビールを、ぐびぐび飲みながら一日の疲れを癒す。
何はともあれ、これ最高の瞬間だよね。

「そー。大学の後輩。こいつは昔から暴走するタチでな、人の話を聞かない奴なんだ。」

「そんな事先輩が言うんですかっ!僕の話しなんて聞いてくれた試しが無いじゃないですか。」

豪快に喉を鳴らし、二杯目の生ビールを飲み干す山内さんの隣りで、陰気にお湯割をチビチビ飲む北方准教授。

「なんだ、最初に言ってくれればいいのに。」

「ばーか、仕事なんだろ。俺のプライベートは関係ねーじゃねぇか。つか、良一はまだ呪いが溶けて無いわけ?」

陰気にお湯割を飲む輩は、膝を抱えて俯く。
今、山内さん「呪い」って言ってた?
何だろ、ちょっと気になるじゃん。
私の興味本位丸出しの視線に、ニヤリと笑う山内さん。

「学生の頃、ある遺跡の発掘に参加した良一は、小さな土偶を見つけた。完全な状態での出土に皆は驚いたよ。良一は通常の手順でクリーニングを施した。が、誤って土偶の首を落としちまった。」

「それまで、立った今造られたかの様な滑らかな表面だった土偶が、一瞬にしてひび割れ粉々になったんです。普通の現象じゃないでしょ?」

山内さんの後を続けて話す北方准教授は、その時を思い出しているのか、小さく身震いした。