周一郎は絶望した。


一週間、泣いて泣いて泣き続けた。
屋敷の中で何をしていても、遊美との思い出が頭の中を駆けめぐった。食堂で食事をしていては、遊美はオムライスが好きだったが、卵の中のチキンライスに入ったグリーンピースが苦手だったことを思い出す。広い庭を散歩していては、小さい頃に、近所の男の子といっしょに、虫取り網を持って、蝶々を追いかけまわしていた、日焼けした遊美の姿を思い出す。十年という歳月は、あっという間だったが、長かった。玄関にいても、屋根裏部屋にいても、そこで笑っていた遊美の笑顔が頭に浮かぶ。
そして、その思い出のひとつひとつが、周一郎の胸を深くえぐる。涙がまた、とめどなくあふれだす。


しかしその後、あることを思いつき、急に強い興奮を感じてきた。
私はいま、物凄い悲しみに襲われている。脳髄がねじきれそうなくらいの喪失感に蝕まれている。感情が、ごうごうと暴れまわっている。これほどまでに激しい、心の乱れは初めてだ。
この感情を、創作にぶつければ、作品に魂を・・・・・・死んでしまった者の魂を注ぎ込むこともできるのではないだろうか。
そう考えた途端に、笑いがこみあげてきた。
そうだ。私ならできる。私の才能と、この強い感情の乱れがあれば、・・・・・・作れるはずだ。そうだ。作るのだ・・・・・・遊美を。
周一郎は、体を震わせ、泣きながら大声で笑った。