言葉に違和感をおぼえた。


「殺すって?」
「付喪は生き物ですよ。自分の意思を持ち、自分で行動している。だから、中には悪いやつもいる」


ぼうぜんとする母親の背後にむかって、陸と名乗る少年は声をかけた。


「それじゃあ、遊美ちゃん。始めようか」


「え?」
母親は、ふりむいて目を丸くした。


いつのまにいたのだろうか。後ろにひとりの少女が立っていた。


長髪の、十七歳くらいの少女だった。背が高い。前髪がのびていて、両目がほとんど隠れていた。髪の隙間から、わずかに見えるその瞳には、生気がなかった。


白いブラウスに、黒いスカートを身につけていた。


顔つきは整っていたが、美しいとは思えなかった。


異様だと、なぜかそう思った。


何より目をひいたのは、その少女が持っている長い棒だった。


丸太のような太さの黒い鉄の棒、いや、鉄柱と呼んだほうがしっくりとくる。その重そうな鉄柱を、少女は軽々と肩にかかえていた。


鉄柱の表面には、細かい傷がたくさんついていて、何の道具なのかはわからないが、よほど荒っぽい使いかたをしているようだった。


何なの、この娘?


母親は手に汗がにじむのを感じた。


「だめだよ、遊美ちゃん。そんなこっそりとはいってきたら。おばさん、おどろいているじゃないか」
陸がやんわりと注意すると、遊美と呼ばれたその少女は、無言で頭をさげた。どうやらあやまっているようだ。陸もすまなそうに頭をさげた。
「すみません、事が終わったら、すぐに出ていきますから」顔をあげて言った。「じゃあ、遊美ちゃん。始めようか」


そのあと、何が起こったのかわからなかった。