さて、どうやって近づこうかしら。
チラッと横目で周りをみると、走ってくる子どもとその奥にはおぼんにシャンパンの入ったグラスを手にして巡回しているウエイターが視界に入った。
そこでわざとそっと一歩後ろに下がり、子どもにぶつかった。
「きゃっ!」
「おっと。
大丈夫かい。」
その衝撃で前に倒れ、胸へとダイブした。
すかさず彼のシャツに片手にしていたノンアルコールカクテルをぶちまけ、ぶつかったはずみで唇に付けていたルージュをつけた。
私の片手にはノンアルコールカクテルはすっかり外に出てしまい空になったグラスだけが残された。
もちろんわざとだ。
「ごめんなさい。
あら、どうしましょう。シャツを汚してしまったわ。
弁償いたしますわ。」
「いいよ。気にしなくて。」
「そんなわけにはいきませんわ。
せめて、汚れを落とさせてください。」
自分もこんな女の子らしいことができたのかと思うくらい鳥肌が立つほどの甲高く甘い声と上目遣いで見つめた。
「お客様、お怪我はございませんか。」
さすがは一流ホテル。
狙い通りウエイターの声がかかった。
言葉では自分がなんとかすると言っておきながら、ウエイターが声をかけてくれることを見越していたのだ。

