しかし、すぐに俯いたままその場に立ち止まった。
「あの……!…私は店長がこの店をなんで始めたかは知りません。だけど、これだけは知っています。」
部外者が出しゃばりすぎかなと躊躇しながらも振り返って視線を下に向けたまま言葉を発した。
「店長にとってこの店はすごく大切なもので簡単に手放せるものじゃないんです。だから、簡単に売ればいいなんて言わないでください。」
店長はこの店が大好きでここに来るお客さんと他愛のない話をして笑顔で帰っていく姿を見送る事ができるこの店が誇りだ。
「それに私だってこのお店がなくなるのは困るんです。」
最初はただ、お金さえ入ればそれでいいと思っていた。
もちろん私は生活の命綱であるこの職場が無くなるのはとても困るが、だけどだんだんそれだけじゃなくなっていった。
この店が大好きで、ここに来るお客さんを店長と出迎えて、たまに冗談なんか言ったりして無機質なものと化した私の毎日にいつのまにか色を添えてくれていた。
だから、収入源が無くなるのは断固として避けなければならない事だけど、私のほんのささやかなひと時まで奪われてはたまったものじゃない。
「ふん。それがどうした。だったら、そのお前が言う誇りとやらが金を返済してくれるのか。お前が代わりに金を返すのか。何もしないできない部外者が口出しするな。」
もちろんこっちの事情なんてこの人にとったらどうでもよいことで、正論すぎる言葉になんの返事もえできずに黙り込んでしまった。

