「それにしても、今日は珍しく定時で急いで上がるものだから何かあったのかと思っていたけれど、妹さんだったとはね。」
「オレだって仕事しかないわけじゃないよ。」
「会社ではバリバリ仕事こなしてて、仕事以外興味ないのかと思ってた。
我妻君の意外な一面発見したわ。
我妻君ね、こう見えても今度の大きなプロジェクトのリーダーになったのよ。この年で選任されるなんてないことよ。」
「へー…。」
「今のうちにいっぱい稼いでもらっていっぱい奢ってもらわないとね。」
「オレを何だと思っているんだ。」
私が知らない伊織の仕事での話。なんだか疎外感を覚えた。
もし、私が伊織と同い年なら東堂さんのように対等に話せたのかな。
そうすれば、こうやってコソコソ妹なんて嘘までつかせなくて済んだのかもしれない。
「あらやだ。ごめんなさい。兄妹水入らずのところにお邪魔しちゃったわね。」
「大丈夫ですよ。仕事の話はあまりしないので聞けて嬉しいです。”お兄ちゃんの。”」
仕方がないことだと頭では理解していてもどこか納得できない気持ちを込めてお兄ちゃんという単語に含みを持たせて笑顔で言い放った。
これは少し困らせてやろうという私のささやかな抵抗。
その様子に彼は焦っているのか、額に薄っすらと汗をかいている。
妹じゃない。彼女ですってちゃんと紹介してほしい。
そう言葉にしていいのはきっと私がちゃんと大人になってから。
今は妹と言ってしまって気にはしてくれているだけで十分だって自分に言い聞かせた。

