「…マズイな。…塩の量が足りなかったか」

「あああ大変! 二人を助けなきゃ!!」

スリサズは慌てて立ち上がり、慌てすぎてまた滑る。

そのスリサズの襟首を、ロゼルがもう一度、捕まえる。

「…落ち着け」

「放して!」

樫の杖で足元を払われ、今度はロゼルが転ぶ番だった。

その隙にスリサズは、まっすぐアンコクマイマイへ駆けていく。

「氷の剣!」

樫の杖にまとわりついた雨水が、杖を軸に固まって、鋭い氷の刃と化す。

スリサズはその魔力の結晶を、アンコクマイマイの身の、老人と孫娘のちょうど間の部分に突き立てた。

「ギュオオオオ!」

魔力の刃の冷たさに、アンコクマイマイが身震いする。

「さあ! 今のうちに…
…え?…」

スリサズの両腕を、老人と孫娘が、左右それぞれガッシリと掴んだ。

「ちょっ、待っ、二人同時には…」

二人は、アンコクマイマイの身から引き抜かれようとしているのでは、ない。

逆だ。

二人はスリサズを引き込もうとしていた。

この時になってようやくスリサズは気づいた。

孫娘の服が黒く焼け焦げていることと、老人の髭に白い霜が張りついていることに…

グギュグギュグギュ…

嫌な音が響く。

老人と少女…

人の姿の幻が、にじみ、消える。

その正体は…

アンコクマイマイの触角だった。

森の中でスリサズに幻と戦わせていた時に氷の魔法の攻撃を受け、ロゼルに幻を破られた際に焼かれた、魔物の触角。

そしてスリサズは、その触角が自分の両腕に絡みつき、自分が捕らえられていることに今更に気がついた。