炎が収まり、湯気が風に散る。

雨はいつしかやんでいた。

「ははは…はっ…ははっ…
蒸し焼きになってるわ」

スリサズが、力の抜けた笑い声を上げた。

見渡せば森一面、緑の木々の幻が解け、長雨で朽ちた、沼とも呼べない泥溜まりの荒野が広がっていた。

「哀れなもんね。
自分で森を腐らせたくせに、それでも緑に囲まれて暮らしたいだなんて。
まるで人間みたい。
カタツムリのくせに生意気だわ」

「…スリサズ…すまない…」

ロゼルがよろよろと立ち上がる。

「ん?」

「…あの杖…親父さんの…」

「あー。
いーのいーの。
パパが見てたらお説教ものだけど、当面あっちにいく予定はないしィー。
って、こんなシゴトしていていうのもナンだけどね」

スリサズはパタパタと、妙に軽く手を振った。

ロゼルは唇を噛んだ。

ハンターとしての腕ではロゼルの方がずっと上なのに、気持ちではいつも負けてしまう。

空には虹がかかっていた。

ロゼルはアンコクマイマイの亡骸を見上げた。

予想していたよりも、はるかに大きい。

本日の戦利品。

アンコクマイマイの殻を鍛冶屋に売れば、軽くて丈夫な武具が作られる。

その武具を買った戦士が、魔物から人々を守るために使うか、はたまた人同士の争いに利用されるか、それはハンターの知るところではない。

ハンターが考えるべきことはただ一つ。

「…どうやって持って帰るか」

「この場で食べちゃえばいいのよ」

言うが早いがスリサズが、アンコクマイマイの肉にかぶりついた。

「…!?」

「うん!
上手に焼けてる!
それに塩加減もちょうどいいわ。
ロゼルってば意外と料理得意?」

「いやいやいやいや…」

「エスカルゴよりも柔らかいわね。
それに、とってもジューシー!
あんたも食べる?
今回はあんたの手柄ってのもなくはなかったから、半分こしてあげてもいいわよ」

「いやいやいやいやいやいやいやいや…
俺は殻だけで…」

「何? こいつ、殻も食べられるの?」

「違う違う違う違う…」

さも美味そうに巨大カタツムリを頬張る少女の姿を見兼ね、ロゼルが思わず天を仰ぐと、晴れ渡った空に幾年ぶりかに鳥が飛んでいた。