その瞬間、目の前には荒木の顔。
ものすごく近い距離。
もちろん、こんなに近距離で荒木を見たのは初めて。
たった一瞬の出来事だったはず。
あたしは咄嗟に身を引こうとした。
でも荒木に腕を掴まれて、また顔が近くなった。
そして荒木の唇が、あたしの唇に触れた。
「クリームパンの味する」
唇が離れてから、荒木は悪戯に笑った。
ーーー荒木にキスされた…?
黙ったままのあたしに、
「お前が悪いんだからな」
と荒木は言った。
「…急に振り返るから」
でもあたしは聞いてなかった。
ーーー何で、荒木とキスなんか…。
「ねえ、聞いてる?」
荒木に腕を掴まれ、顔を覗き込まれた。
ーーーあたし、こいつとキスしたんだ。
…この唇と。

