「あたしまだ一口も食ってないのに!」
荒木の顎を掴み、安物のパン一口でキレるあたし。
「食ったもん勝ち」
そして安物のパンを旨そうに食べる荒木。
ーーー本当、荒木なんか嫌いだ。
荒木に背を向けて、あたしはクリームパンを頬張った。
荒木に食べられる前に。
「なあ、桜庭」
後ろから聞こえる荒木の声。
「シカト?」
ーーーうるせーな。
あたしはワザと荒木を無視した。
パンを食べた仕返しだ。
でもその後、急に静かになった。
ーーーやっと、いなくなったか。
パンを食べながら、ホッと息をついた。
するといきなり、
「桜庭」
耳元で聞こえた、荒木の低い声。
あたしはびっくりして、思わず振り返ってしまった。

