洋平の家の近くに小さな寺がある。


毎年、大晦日になると、近隣の住民がその寺に集合して、除夜の鐘をつく行事が行われる。


十二月三十一日。今年は洋平もその行事に参加してみることにした。除夜の鐘をついたあと、ミツキの神社へ初詣に行くつもりだった。


夜の十一時半にジャンパーを着て家を出た。街灯なんてまったくない暗い山道を、懐中電灯で照らしながら進む。


今朝、雨が降っていたので、空気が冷たくなっていた。強い風がふくたびに、洋平は何度も手をこすりあわせた。


寺に着くと、鐘のまわりにはすでにたくさんのひとが集まっていた。ほとんどが老人や子供だった。
篝火がいくつか焚かれており、老人達はそれを囲んで暖をとっていた。子供達は、夜遅くまで起きていることに興奮しているのか、やたらとはしゃぎまわっている。


「麻見君」


聞き覚えのある声がした。
声の方を向くと、篝火の前に藤沢が立っていた。藤沢は、洋平の前に駆けよってきて聞いた。


「麻見君も、除夜の鐘をつきにきたん?」


「はい、藤沢先輩もですか?」


「わたしは自治会の手伝い。じいちゃんが自治会の会長をやっててね。こういう行事があると、いつも手伝わされるんよ」