藤沢はミツキをにらみつけて言葉をつづけた。


「川本さん。あなた、今日の芝居を台無しにしかけたくせに、ようそんなに楽しそうにしとれるわね」


むっとした洋平が何か言い返そうとすると、ミツキが手でそれを止めた。そして、神妙な顔になって藤沢に頭をさげた。


「すいませんでした」


「あなたが台詞を忘れたせいで、あのシーンだけぎこちない雰囲気になってしもうたんよ。そのへん、自覚してるの?」


「はい」


藤沢の説教は長くなりそうだった。ミツキはおとなしく聞いていた。まわりの部員達は不安そうにそれを見つめていた。


「もういいでしょう」


洋平が言葉をはさむと、ミツキが首を横にふった。


「麻見君、悪いのはわたしなんやけん」


「でも」


「わたし、いま叱られたいんよ。台詞を忘れた自分が許せんけん」


それを聞いて、洋平はしぶしぶだまりこんだ。
洋平に止められかけたことが気に触ったらしく、藤沢の説教は、いっそう厳しくなった。洋平は口出ししたことを後悔した。


「だいたい台詞を覚えるなんて、役者の初歩中の初歩やで。そんなんもろくにできんなんて、あんた演劇部やめたほうがいいんやない?」


「はい、そこまで」


先頭を歩いていた仁さんが、ふたりの間に割り込んできた。