ミツキの演歌がうけたのを見て、腹をくくったらしく、他の部員達もひとりずつ、いろいろな芸を始めた。


あるひとは、宙返りや倒立といった体操を見せ、またあるひとは、簡単な手品をやってみせた。三田村が、何を考えたのかはわからないが、ズボンを脱ごうとして仁さんに殴られていた。


裏方である洋平と藤沢は、少しはなれた所からその様子をながめていた。


「みんな、ようやりますね」


洋平が感心してつぶやいた。藤沢は、側にある自動販売機で買った缶ジュースを飲みながら言った。


「前回の特別練習よりはまともやからね」


「え?前にもこんな練習があったんですか?」


「仁さんはね、時々今日みたいに、特別練習をいきなり考えだして、みんなにそれをやらせるんよ」


「その前回の特別練習っていうのは、どんなんだったんですか?」


「それがね」藤沢は小さく笑った。「ナンパ」


「はあ?」洋平は眉をひそめた。「なんですかそれ?演劇とぜんぜん関係ないやないですか」


「やっぱりそう思う?」



「そう思うって、当たり前ですよ。ナンパして演技がうまくなるわけないじゃないですか」



「でもね、勇気をだしてナンパをすれば、度胸がついて、舞台の上で緊張することが少なくなるし、何の前準備もなしに異性を口説ければ、アドリブがきくようになって、演技の役に立つんよ」



「じゃあ、部員のみんなは、その、ナンパを?」



「うん。深夜までかかったけど、なんとか全員やりとげたわ。人間やればできるもんやね」


信じられない話だ。それじゃあ、ミツキもナンパをしというのか。なんだか複雑な気分だ。


「辞退したひとはいなかったんですか?」


「うん」藤沢は缶ジュースを飲みほした。「みんな、仁さんのことを信頼しとるけん」