ふたりはならんでトイレを出た。もう授業は始まっているらしく、廊下は静まりかえっていた。それぞれの教室から、教室の話し声が聞こえてくる。


「わたし、さっきのが初めてのキスやったから」


唐突にミツキが言った。洋平は、少し動揺した。


「あ、ああ、そうなんや」


「それにしてもさ」ミツキは笑った。「初めてのキスの場所が女子トイレってのはどうなんかな?」


洋平も笑った。


「まあ、ええやん。おれららしくて。それに、無駄にロマンチックな場所でするよりも、インパクトがあって思い出に残るやろ」


「せやね。そう考えると、なんか貴重な体験やったかもね」


ふたりは笑いながら歩いていった。




窓の外では、中庭の桜が蕾をつけていた。




もうすぐ三学期が終わり、春がやってくる。







終わり