次の日の放課後、部室で洋平の図案を見た藤沢は、しばらくの間だまりこんだ。そして静かにつぶやいた。


「なるほどね。よう、こんなん思いついたわ。うん、おもしろい」


「いやあ」


洋平の頬がゆるむ。


「でも、これを作るのに、どれくらい時間がかかると思う?本番に間に合うかな?」


痛いところをつかれて、頬のゆるみが消えた。


「間に合わない、ですかね?」


「常識で考えたらね」


「そうですか。じゃあ、だめ、ですか」


描きたいものを描くことに夢中になったあまりに、本番までの日数を計算しなかったことを恥じて、洋平は拳を握りしめた。


「だめとは言っとらんよ」


「え?」


藤沢は、図案をクリップでまとめながら言った。


「常識で考えて無理なら、非常識で考えるんよ」洋平をにらむ。「今日から、わたし達の睡眠時間は一日三時間。残りの学校の授業以外の時間は、君の図案をもとにして、大道具、小道具、衣装を製作にあてる。ええね?」


数秒ぼうぜんとしてから、洋平は笑って、はいっと返事をした。


さっそく作業を開始した。
洋平は大道具と舞台セットを、藤沢は小道具と衣装を作ることにした。


「それじゃあ、行くでえ」


藤沢は叫んだ。


「押忍」


洋平も叫んだ。


ふたりは材料の準備のために、いきおいよく部室を飛びだした。