淵上がもどってきたことで、演劇部は活気づいた。


さっそく、卒業生送迎会にむけての準備がすすめられた。


淵上は、新しい台本をたった一日で書きおろしてきた。


題名は『百獣』。今回はなんと無言劇だ。


話の舞台はサバンナ。そこに生息する動物達の弱肉強食のドラマを、それぞれの動物の扮装をした役者達が、台詞無しの動きだけで表現するというものだった。


これなら台詞を覚える必要がないぶん、練習時間を短くすることができるので、卒業生送迎会に間に合うかもしれない。しかし動きだけでドラマを作りだすには、相当な演技力が必要とされる。人間じゃないものを完全に演じるのは、プロの役者でも難しいのだ。


しかし、そんなことにたじろぐような人間は、演劇部にはいなかった。初めてやる無言劇というスタイルに好奇心と興奮をかきたてられ、全員が顔を上気させていた。
すぐさま配役が決められて、練習がはじまった。


屋上にひびく部員達の大声はいつも以上に気合いがはいっており、下校する生徒が思わずふりかえるほどだった。