一時停止をしたように身を固め、青ざめている父の肩を揺さぶった。


「お父さん、ここに来る前に通報してくれていたんだね……ありがとう」


「ああ。携帯から聞こえる内容が只事じゃなかったからな……液晶画面に朋子と表示され、名前の変更を忘れていたのに気付いたよ。

心臓が飛び跳ねるくらい驚いたんだぞ? 反面生き返ったのかと嬉しくもあった。変な気持ちだったよ――会社から自宅が近くて本当に良かった。綾に何かあったら、それこそお父さんは死を選んでいた。

なあ綾、お父さんの人生って一体なんだったんだろうな。悲しくて仕方が無いよ――刺されても本当は良かったんだ。家族をめちゃくちゃにしたんだから」


父は頭を垂れ、大粒の涙を流した。


「お父さん。そんなことを言わないで……私、一人じゃまだ生きていけないよ。これからまたやり直せば良いじゃない。もう一度再生しよう?」


血痕が彩る部屋に、父の小さい呻き声とパトカーのサイレンの音が悲しく交差された。