りんは流れ弾のように進入してくる警察に、父の背中を押しやった。


「……私には殺せないわ。愛する拓也さんを殺すなんて出来ない。あの世に逝くのは、醜い私だけでいい。幸せだったわ――拓也さん」


指が震えながらもりんは、ナイフを高々と上げ、腹に勢い良く振り下ろした。父の背中に血飛沫が跳ねる。


その毒々しい状況に気付いたのか、父はゆっくりと振り返り、驚愕の顔色を浮かべた。


「り、りん! ……なんだってこんな。お前は! お前は――本当に馬鹿だ」


「今だ! 被疑者確保! 救急車だ! 救急車を呼べ!」


りんの血まみれの体と猿田の身柄は、警察たちの力で急いで外へ運ばれる。


「お、お父さん大丈夫!?」