父は肩を落とし、りんの方へ向かおうとした。だけどその足を止め、少しだけ横顔を見せた。


「……綾。お前は将来幸せになるんだ。こんな大人になっちゃ駄目だぞ。お前は欲に惑わされず、しっかりと生きて欲しい」


「さぁ、こっちに来て。私の全てを賭けた男……離しはしない!」


りんはソファーへ腰を落とし、父の首に手を回した。喉元に光るナイフが当てられる。


「嫌だ! もう止めて! 一人になるのは怖いよ! お父さん帰ってきて!」


涙が溢れ、視界が霞んだ。


その時だった。訳の分からない複数の足音が家の中に響き渡った。


「警察だ! この家は包囲されている! そのナイフを捨てなさい!」