「山田綾さん、山田さん! 帰る前にちょっとこっちへ」


呼び止める声に振り返ると、耳毛を揺らし、廊下を走ってくる猿田の姿があった。


「どうしたんですか? 猿田先生……」


「いいから、こっちへ」


腕を引っ張られ入ったのは、視聴覚室だった。静かでひんやりとする空気。室内の明かりは灯さず、そのまま話を続けた。


「あれから、りんと何を話したんですか?」


「そのことを伝えておきたかったんだ。彼女の精神状態は少しおかしい……そうなっても変ではない話なんだ。

あの人は拓也さんが、生きる全てだったんだからな」