「いやー綾ちゃん。取調べに手子摺ってねぇ。こんなに遅くなってしまったよ。刑事さんには、ちゃんとお話しておいたからね」


ニタリと笑った猿田は不気味だったけど、ちょっぴりほっとした。


「ささ、どうぞ。ぐいっと日本酒を飲みましょう。聞きましたよ~先生は綾の命の恩人だ」


「拓也さん、恩人って……私はまだ詳しく話を聞いてないわ?」


「大したことじゃないですよぉ~りんさん。綾ちゃんが、ある生徒にナイフを向けられ、刺されそうになったのを私が庇ったのです……まぁ、結果は悪かったですけど。忘れましょう、この出来事は! はははっ!!!!」


猿田は大声で笑い出したが、誰もがそんな気分ではなかった。人が一人死んでいる。この男は命をどう見ているんだろうか?


「綾はなぜ刺されそうになったんですかね。こんな良い子はいないのに……」


一息つくように、ジュースを一口飲み込んだ。


「私だって分からないよ。でも彼女はサファイヤを盗んだと叫んでいた。それが関係してるんだと思う。勿論盗んではいないし、言い掛かりなんだけどね」


父は日本酒のグラスを重々しく見つめていた。


虐められていたという、私の言葉を思い出しているんだろうか?


「拓也さん、りんさん。安心してください! 私が必ず真相を突き止めます。可愛い綾ちゃんに、怪我をさせるわけにはいきませんからねぇ~

おお、このマグロとろっとして美味しいですねぇ~! こちらの蟹グラタンも最高です! 僕も早く結婚したいなぁ!」


――真相? 本当にそんなものあるんだろうか……先生の背中で見えなかったけど、りさの息の根を止めたのは、もしかしたら?


突然浮かんだ、危険な思考にシャットアウトした。