リビングに、ひょいと顔を出したのは案の定、猿田だった。


「どうも、こんばんわ。お邪魔しまーす」


「おや、猿田先生! こんばんわ! 今日は綾がとてもお世話になりまして」


「いえ、こちらこそ。変なことに巻き込まれてしまいまして……綾ちゃん大丈夫か?」


猿田は新品のワイシャツを身に着けていたが、血の生臭い香りがプーンと鼻に突いた。


そよぐ耳毛の臭い、口臭……昔嗅いだことがある、獰猛な肉食獣のような生臭さだった。


「猿田先生、お座りになって。今日はお刺身ですの。お箸とお皿と……日本酒で宜しいですか?」


「ありがとうございます、えーと、日本酒でお願いします。では、ここに失礼」


横に座る猿田のスーツを見下ろすと、まだ少量の血が付着していた。