「お父さん。ご飯食べれば、元気がきっと出るよ。カッコイイ顔が台無しだよ、しっかりして」


腕をポンポンと叩いた。こんなにも気力を感じられない父は、あの葬式以来の様子だった。


――猿田がお父さんに洩らした、浮気ネタが効いてるいのかな……りんに不信感を持ち始めているの?


「賢い綾が娘で本当に良かった。お前は俺の宝物だよ……」


「止めてよ、お父さんまだ酔っているの? 早く行こう。りんさんに変な風に思われちゃうよ」


「……そうだな」


階段を2人で下りると、りんは昨日の事が嘘のように微笑みを浮かべていた。


「2人ともスープが冷めちゃうわ? 早く座って。拓也さんは頭がぼさぼさね? 顔を洗ってきて下さいな」


いつもよりも安定した口調に、ドキドキしながら椅子に座った。りんをマジマジと見つめたが、いつもと同じ顔色だった。


――ブログは、ばれてないみたいね。それにしても、私の頬を叩き、凄い剣幕で怒り狂っていたのに……本当に掴めない女。


「何、綾ちゃん。そんなに私の顔を見つめちゃって。チーズがのったオニオンスープ好きでしょう? 冷めないうちにどうぞ」


「あ、ありがとう」


カップに入ったスープを口に運んだ。ほわんと玉葱の甘みが口内に広がる。料理の腕は確かなものだった。


「ねぇ、綾ちゃん。昨日はゴメンナサイネ、叩いたりしちゃって。私達、仲良くしましょうよ」


無言でスープを啜った。


「私と話したくない? そうよね、でも……猿田先生をもう連れて来ないで欲しいのよ。夕飯代だって大変なのよ?」