「ほ、本当よ。なにもいわよ、先生にはお世話になってるし……なにがいけないの?」


ぶれる視界、揺れるりんの表情。体が激しく揺さぶられる。


――うるさい! なにが悪いの! 虐められなくなった私の、ちょっとした恩返しじゃない! え?


頬に激しい痛みが一瞬走る。思わず片手で抑えていた。


支えていた両手は解け、寝ていたゲームは床に落ちた。大きな衝撃音、ごつっと嫌な重い音だった。


「ギャーン! キャンキャン!」


硬い木目の床に、体を激しくぶつけたゲームは足早に部屋へと走った。


「なにすんのよ! 怪我したらどうすんのよ!」


「良い母親になろうと、努力しているじゃない! なにが不満?」


――母親? ふざけるんじゃないわ……私の母親は1人しかいない。


「良い母親だって? 笑わせないでよ! 叩いたり、物をなげたり、理不尽な事を言ったり……なにが良い母親なの? 先生を呼んだらなにがいけないの? ほんと意味不明!」


鬼の形相に怯むことはなく、怒鳴り返す。

将来は仲良く暮せる。やっぱりそれは想像がつかない未来だった。

――この人とは無理なんだ。


「……とにかく、もう2度とあの先生を家に入れないで」


「知らないわよ!」


部屋へ戻ろうと駆け出した。

あの女は、やっぱりどこかオカシイ……。