「ただいまぁ~、ちょっと遅くなったわね」


玄関で声がした。紛れもなく、りんの肉声だった。父は反応し背広を乱暴に脱ぎ、ソファーの背もたれに掛けた。


ガサガさとビニール袋が擦れる音と共に、りんはリビングにそさくさと、姿を現した。


「ごめんなさい、遅くなってしまって。特価の牛丼買ってきたわよ。意外と美味しいのよ?」


何事もなかったように、テーブルに一つづ牛丼を取り出す。箸や紅生姜までたっぷりある。サラダやドレッシングまで用意されていた。


「おい。どういうつもりだ?」


「ここの店ね、紅生姜やドレッシング、箸、掴み放題なのよ? たまには良いでしょ、家計が助かるわ」


笑顔を作り、父に向けた。ただ、眼だけは笑っていなかった。


「お前、今日りりかを付回したって本当か!」