透き通るような綺麗な白磁のような肌に、艶のある胸元までの長い黒髪を靡かせる少女は藤色の着物を身に纏い、リムジンから降りてきた。
きりっとした猫目にふっくらとした真っ赤な唇、まさしく美少女と形容していいであろうその容姿は周囲の人々を一瞬で魅了した。静かに開かれた大きな目は髪と同じ黒。吸い込まれそうなほどの瞳を僅かに細めてゆったりと彼女は口を開き―
「…あぁ、全くもってくだらない。」
そう吐き捨てる少女の名前は藤咲絢乃(フジサキアヤノ)。大金持ちのお嬢様である。
一方、そんな彼女の台詞にざわめく生徒達を校舎の屋上で、短くカットされた眩い程の金糸の髪が乱れるのも構わずに風に任せ、ニヒルな笑みを浮かべる少女がいた。
外国人のような端正な顔立ちを歪めて笑うと、それはそれは様になる。日本人にはまず珍しいだろう鮮やかな緑色の瞳は少しタレていて、何処か艶かしい。喉を引き攣らせるようにして低く、彼女は笑った。
「これまたとびきり美人な女の子じゃんか。あの黒髪といい着物といい、正に大和撫子って雰囲気だ。まぁ、何か驚くようなことを言ったみたいだけど、何て言ったんだろーな?」
「……知らねぇよ。聞こえるわけないだろ、こんな距離で…屋上と校門だぞ」
「えーつまんないなぁ。お前の聴力なら簡単じゃないのかよ。」
「無茶言うなよ。…そりゃ可能っちゃそうだけど、常になんて怠いだろ。お前の目と一緒だ」
私がそう言うとそりゃそうだ、とけらけら笑う彼女は高橋遼(タカハシハルカ)。不良少女のような出で立ちをしているが、まさしくそうである。
授業はサボり、屋上か図書室、若しくは空き教室で暇を潰している。喧嘩は吹っ掛けることこそないものの、売られたら買うの繰り返し。
そんな彼女の有難く(かどうかは少し怪しい)も友人を務めている私は結城(ユウキ)という。名前と思われがちだが、正真正銘本名だ。
「あの子さぁ、例の転校生でしょ?何年生か分かる?」
「お前、資料見てないのかよ…1年生だ。16歳……ただ、」
「ただ?」
「…今まで学校には通ってなかったそうだ。此処も、いくらお嬢様学校だからって、渋々来たんだろうよ。何が理由かは知らないがな。」
ふーん、と興味があるのかないのか。よくは分からないが相槌を打った高橋は再び視線を門の方に移した。
「…………面倒事、起こすんじゃねぇぞ。」
「あはっ…どーだろうね」
面倒臭そうに言った私に、にやりと口許を歪めながら高橋は振り返った。
………嫌な予感しかしねーだろうが、cazzo!

