ほんの少し錆びた扉が、ギィ…と古びた音を立てて開く。


理事長に頼んで作ってもらった、屋上の合鍵。この鍵は、私と錐生だけが持つ、特別なモノだった。



「んん〜誰もいないねー。」

「当たり前でしょ。」


四方に広がる金網にもたれた。きしっ…と鈍い音を立て、私の身体を支える。


「あーあ。疲れた……。」

「さっきは…ありがとう。」

「あんなの当然。お嬢、困ってたみたいだし。」


ざぁっ…と強い風が吹く。春といっても、まだまだ肌寒い日が続いた。

髪や制服が、風に靡いている。


「あのね、錐生……。」

「んん〜何?」

「さっき言ってた事……。」

「さっき?」



泣いている私を抱きしめながら呟いた言葉――。



「早く気付いて…ってどういう意味……?」


気になっていた言葉。気付いてって何を?


「あー…本当鈍いね、お嬢。」

「……え?」



じりっ…と距離を縮めて来る錐生。フェンスに寄り掛かっていた私は、あっという間に追い詰められて、お互い吐息が掛かる程、顔が近付いていた。


「なっ…何よ!?」

「お嬢……知りたい?」


ニヤッと口元を上げ、妖しい笑みを浮かべた錐生は、私の耳元にふぅ…と息を吹き掛けた。

突然の出来事に驚いて、私の身体はゾクッと身震いした。


「まだ、教えないよ…。今度の週末までは……。」


週末…約束の日、明後日だ。

錐生が何を考えているのか、知りたかったけど、あまりに顔が近すぎて、錐生を直視出来ない。

ふいっと顔を背けた私を、面白そうに覗き込む。


「顔、真っ赤だよ?」


そう言って、人差し指と親指を使い、グイッと私の顔を持ち上げる。


「やっ…何!?」


つぅ…と、錐生の冷たい指が、私の唇をなぞる。

驚いて、思わず身体が震える。

その反応を楽しんで、笑顔を浮かべている。


「じゃあ…週末、楽しみにしてるから♪10時に駅前でね。」


くるっと身を翻して、屋上を立ち去った錐生。

その後、学校で錐生を見ることはなかった。