「…行ってきな。」


柔らかく口元を上げると、会長は、私の身体の向きを変え、トンッと背中を押した。


「そんな情けない顔、やめろ。お嬢は笑ってるべきだよ。」


その言葉には、幾つもの会長の優しさが詰まっていて、今の私には、涙が込み上げてくる程だった。


「会長…ありがとう。」

「いや、俺は何もしてないよ。俺は、お嬢が元気なのが、一番だからさ。」


会長は、本当にいい人だ。こんなに人の事、第一に考えてくれる人は、なかなか居ない。

本当、ありがとう…会長。


「じゃあ、またな。」

「はいっ。」





―――……。


私はひたすら走っていた。

まだ学校に居るのかさえ、分からないのに……。


でも、あいつならきっと、ここに居るって思ったんだ―。





私とあいつの秘密の場所。





私達だけが、特別に入る事が出来る、内緒の場所。





例え傷ついたって、怖くはないよ。

『貴方とちゃんと向き合おう』って決めたんだ。

私の想い、届いてほしい。

貴方の気持ちは解らないままだけど…それでもいいんだ。

貴方に知ってほしい。

ただそれだけでも………。





この想いを胸に抱きしめ







私は、重い扉を開いた――。