ピンク☆ゴールド【短編】

――でも私は、とっさに錐生を拒んだ。


「い…や……怖…い」


その時の錐生の瞳は、まるで、獲物を捕らえた獣……
血に飢えた吸血鬼のようだったから…。


「あ…ごめ……。」


怯えた瞳をした私を、錐生は優しく包み込む。

『もう怖くないから』

私の身体にひしひしと伝わってくるようだった。


「俺……もう行くわ。…あいつには、あんまり触られないでね。」


俺がこんなに我慢してんのに…とそう小さく呟いて、錐生は理事長室から、姿を消してしまった。



―たった一人、残された私は、ぺたんと床に座り込んだ。急に力が抜けて、私は動けなくなってしまった。

有りのままの出来事を思い浮かべる。


俊也が帰って来て…

私に抱き着いて…

錐生がそれを見て…怒った?


……独占欲?

それって…嫉妬っていう意味?

錐生が…俊也に、嫉妬?


我慢の限界って……

錐生は、私に触れる事、我慢してるの?


恋人同士でも…

触れられないの……?


想いが…

通じ合ってないから?


解らないよ…

私の事、好きなのか…

そうじゃないのか…


矛盾してるよ。

想わせぶりな態度、取らないで。

余計にややこしくなる。


…はっきり言ってよ……。



『先ずは、錐生君とちゃんと向き合うべきだよ』



結衣に言われた言葉を思い出す。


そうだよ。

ちゃんと向き合わなくちゃ…

錐生の気持ちを確かめたい。


そして……

自分の気持ちを

ちゃんと形にしなくちゃ…。



私は、誰も居ない理事長室を飛び出して、錐生の元へ向かった―。