5月の半ば頃だった。
私はこの時気持ちに揺れていた。
その理由は…
「まっちゃん先輩~!」
優しい笑顔で抱き着いてきた。
この後輩は浅井ゆかりちゃん。中学二年で絵が凄く上手い。そして大好きな先生を相談する恋愛相談者の一人でもある。
「どうしたんですかー元気ないですよ~?」
「うん…そうだね…」
「大丈夫ですか!?また先生の事ですか?」
心配そうに見てくるゆかりちゃん。
「うん…告白が…その出来なかったから」
落ち込む私。
そう、この時迷っていたのは告白の事。
大好きな先生に告白しようと決心はしたものの、どうしても『同性愛』と『先生と生徒』という関係を考えて告白は出来ずに終わってしまう。
さらに先生は忙しくスケジュールが多忙なのに私なんかが話かけていいのかという戸惑いもある。
ううー私がヘタレでなければ今頃…
「…ちゃん…まっち…まっちゃん先輩!」
ふと、ゆかりちゃんの声で我にかえる。
「えっ…ああごめん!で、なんの話だった?」
「告白は大丈夫ですって!こう何て言うか、軽く言えばいいんですよ!『先生、好きです』って」
「そうだよね!先生好きですだよね!うん、今日の帰りこそ頑張る!」
ゆかりちゃんにはいつも助けてもらってばかりだ。なんだか先輩と後輩が逆に見えてしまう。
その時、先生が美術室に入って来た。
「はいじゃあ始めまーす」
ソプラノの声。花のような笑顔。美人というのはこういう人の事をいうんだろう。誰からも好かれそうで。そんな先生、伊藤綾子先生が大好きだった。
まずは、いつも通り人物画のデッサンからはじまる。
人物画のデッサンが終わり、夏の絵を完成をさせる事と時間が経ちあっと言う間に帰りの時間になった。
「まっちゃん先輩、先生の所行きますよ…!」
小声でゆかりちゃんが言ってきた。
「ほらほらさっさと帰らないと鍵閉めちゃうぞー!!」
ゆかりちゃんが後輩に指示してくれてる。私と先生が二人っきりになれるようにこうやっていつも協力してくれるのだ。
ちなみに他の三年生は先に帰ったので今はいない。
私は、いつもの重いリュックと荷物を持ち美術室を出る。
そして、先生が鍵を閉める。
「ほらほら行くよー」
ゆかりちゃんは後輩と一緒に走っていった。本当の友達というのはこういう人の事を言うんだなってつくづく思った。
こうして先生と私の二人っきりになった。