‐優side‐
今日から高校一年生。実月優です。
凛としたその顔や行動、口調から中学の頃からついたあだ名は【王子姫】。
だからたまに女の子から告白をうけることも。
高校に入って新たなスタートを切ろうとしたのだが、それも虚しく終わった。
「いやぁ~、入学そうそうモテモテですな~優君?」
「君付けんな。チッ…。」
「舌打ちしたっ?!ひどいなー。もー。」
「てゆうか廊下の〝アレ〟どうにかして。」
「ウチには無理だよー。いいじゃん、可愛い女の子ばっかだし。ね?王子姫。」
「王子姫言うな。」
そう。本当終わったのだ。中学で捨てたはずの王子姫の名がなぜか広がり、クラスの前の廊下できゃあきゃあ騒いでる。
「王子姫よ!本当かっこいい!」
「イケメン!女の子なのもったいなーいっ」
はいはい。女の子で悪かったね。
「私、王子姫ならイけるかもっ…。」
「わ、私も!」
イけるってなんだよ。こっち全然イけねぇし。
「良かったねー優ー。」
「全然よくねぇし。」
「でも、廊下の人溜まりの原因はもう一人いるみたいだねー。」
「は?誰それ。」
「ほら!あそこにいるイケメン君!あの子もモテモテだねー!」
「へぇー。俺は無理。」
「えーっ、ウチからしたら最高なんだけどっ!」
そのイケメン君の名は井堀新らしい。
井堀についているあだ名は【王子様】。
茶髪のふわふわした髪の毛に耳にはごっついピアス。
そしてなぜかソイツが俺の目の前に。
「おはよう!実月!」
「は…?俺とアンタ初対面だよね?」
「うん。だけどもう友達ってことで。」
はぁ?意味分かんねぇ。なに言ってんのこいつ…。
「なんでだよ。意味分かんねぇし。」
「同じモテてる同士として、仲良くしよーぜ!」
「モテてるって…。」
「実月って同性にモテるんだなー。」
「しらね。」
「とにかくよろしく!じゃあ、また塾でな!」
「は…?」
なんで塾?あんな奴いたっけ?
井堀…。なんかみたことある気がする…。
「井堀君と塾一緒なの?」
「いや、見たことないんだけど、多分。」
「本当に居るのかなー?」
俺的には居てほしくないな。あんな奴ただんの女たらしな最低男なだけ。女遊びとかしてる奴も嫌い。だから井堀のことは苦手だ。

今日の授業は二時間で終わった。
だから塾に行く時間になるのは早かった。本当に井堀いんのかな。なるべく早く見つけて逃げたかったため今日は早めに塾へ行った。
「こんちわー。」
「あら、優ちゃんこんにちわ。今日は早いのね。」
「暇だったので。」
あたりをキョロキョロ見回したところ井堀はいなかった。
「なんだ。いないじゃないか。」
ホッとしてつぶやいた瞬間。
「あ、実月だ!先に来てたんだ!」
井堀の声が後ろから聞こえてきて思わず体がビクっとする。
「なっ、本当にいたのかよ…。」
「なんかひどいなぁ。俺中一からココにいるしーっ。」
中一ってことは俺が入ったのはその一年後の中二だな。
「ふーん。」
「冷たいなぁ、もう。あ、そうだ!実月ケータイ貸して!」
「あ?なんでだよ。」
「いいから!貸して!」
「はぁ…。分かったよ。ん。ケータイ。」
「実月スマホかー。ま、俺もスマホですけど。」
なんかブツブツ言いながら俺のスマホをいじる井堀。なにやってんだろ。
「はい、スマホありがとー。」
「ん、あぁ。なにしたんだ?」
「俺のメアドとケー番登録しといた!」
「は?なに勝手に登録してんだよ…。」
「友達だからいいじゃん!授業終わったらさっそくメールするから!」
「勝手にしろ…。」
「さー、授業、授業!」
いがいとマジメなトコもあんのかな。
ちょっと見直したかも。
「よし、優ちゃん。今日は数学ねー。」
「うっ…、はい。」
あぁ、数学嫌だ。難しいし、意味分かんねぇぇぇええええっ!
井堀もちゃんと授業受けて…ないわ。
すげーサボってるし。前言撤回。見直したも何もなかったわ。
なんでコッチ来んだよ。授業進まねぇし。授業中ですよ?
「おーい、実月。聞いてんのー?」
「はぁ!?授業中だろ!!お前席戻れよ!」
「えー。せっかく話に来てあげたのにー。」
「頼んでもねぇよ!戻れや、ボケ!」
コイツ彼女いるみたいだしさ。来んなよ、リア充よ。
先生めちゃくちゃ怒ってるし。こっちまで被害が及ぶわ。
「まったく、新たのやつ。立ち歩くなと何度も言っているのに。」
「本当、困りますよね。」
「本当に。」
チッ。あいつのせいで全然進まなかったし。
金払えやゴルァ。

ピロリーン
ん、メールだ。《お前の王子様 井堀新!》
なんて名前で登録してんだよ。
つーか、お前の王子様ってなんだよ!いつから俺はテメェの姫になった。
《実月ぃ~お願いがあるんだけどっ!入口で待っててくんないかな。そのあとアイスおごるから!》
めんどくさ。ま、まぁでも。アイス買ってくれるんなら…待ってやらないこともない。
《分かったよ。待ってる。そのかわりちゃんとアイスおごれよ?》
返信。くっそ。アイスに釣られたがまぁいい。
《ありがとうヽ(*´∀`)ノじゃあ待ってて!帰りに買うから!》
顔文字ブフォッ
おっしゃ。アイス待ってろ。

五分経過…え、遅くね。中で何やってんだよ。いやいや、アイスのため!これくらいなんのその!
十分経過…アイス、アイス。
二十分経過…遅いし。アーイースー。
「実月、ごめん!先生に足止めされてた!」
「遅い。遅すぎる!早くアイス!」
「えっ、う、うん?」
「早く●ーソン行こう!」
「わっ、待ってよ実月ー!!」

‐新side‐
まさかあの実月がアイスに釣られるとは…。
おもちゃをねだる時の子どもみたいだった。
ってか実月チャリこぐの速っ!全然追いつけないし!
実月もう●ーソンついてる。
「井堀!遅いぞ、早くしろ!」
「み、実月速いよ…待ってー!」
ピロンピロン
「実月何アイス食べる?」
「いちごに決まってる!」
決まってるんだ。いちご…ってめっちゃ可愛い…ギャップ萌え。
意外と甘いもん好きなんだな…。
「ハイ、実月のいちごアイスー。」
「わぁ!ありがとう!井堀は何にしたの?」
見たことない無邪気な笑顔が可愛すぎて思わず見とれてしまった。
「井堀ー?おーい。井堀は何にしたのー?」
「うぇっ!?あ、あぁ。チョコだよ。」
「チョコかぁ!一口ちょうだい!」
え、マジで!?やけに積極的じゃね!?
それにチョコをあげるということは…か、かかかか、間接キス…。って別にキスなんて普通だろ。今までだってそうだったし。うん。そうだ。
や、やっぱなんか違う。いざとなるとはずい…。
「しゃ、しゃーねーなぁ。ほら。」
「やった!ありがと!」
うわぁ、チョコ食べてる実月やば…なんかエロイ。
「チョコもうまいなー。井堀、いちご食う?」
「え!?いちご!?あ、うん。食う食う!」
やばい、実月が食べたトコガン見しすぎてた…。
「ん、いちごもうまい。」
「でしょ!!ふふっ。」
実月がふふって笑ったぁぁあああ!!
「ん、何?」
「口の横にアイスついてる。」
「んあ?あ、本当だ!」
「あははっ。汚ーい。」
「あ!?」
やっぱ実月だなー。
んまぁでも、実月のアイス食えたしいいや。
「井堀、アイスありがとな!」
「全然いいよ。あ、今度お前おごれよ?」
「なんでだよ。嫌だねっ。」
「えーっ。」
実月も楽しそうで良かった。
ちょっとは仲良くなれたかな。
「じゃあ、俺がお前の買うからお前は俺の買え!」
「それ意味なくね?」
「ぶはっっ」
二人で吹き出して思いっきり笑った。こんな楽しいの久しぶりだなぁ。


‐優side‐
最悪だ。アイスに夢中になりすぎて心を許してしまった。
井堀とわかれ、帰り道やっと我にかえった俺はずっとこんなこと考えてる。でも井堀もすごく楽しそうで。女たらしだなんて思えなくなってきて。不覚にも少しドキっとしてしまったなんて。
くっそ。アイス美味しかったけど。餌付けかコノヤロ。
アイス…アイス…?
か、かんせ…つ…キス…!?
え、う、うああああああああああああ!!!
忘れてた。完全無意識だった!!
すっげぇ恥ずかしくなってチャリで全力疾走。
そのあとはテンパりすぎてよく覚えてない。

次の日。周りでうろちょろしてるこの女子達どうにかしてくれ。井堀にも会いたくないし。
「あ、実月だ!おはよー!」
「にゃっ!?」
「え、ネコのマネ?」
びっくりして変な声出しちゃったし…。女子達よ、目をハートにするでないよ。
「ち、違う。びっくりしただけだ。」
「なんでびっくりしたん?」
「な、なんとなく。」
この場から早く去りたい。俺は目をそらして教室へ向かった。ちょ、ま、ついてくんなっ。
「咲っ…。」
「お、優おはよ!ってどうしたの。そんなに息切らして。」
「井堀と女子達が…追いかけっ…て…」
「なるほど。おつかれさん。」
「全力疾走…。」

そんなこんなで昼休み。
「本当新君と優って仲いいよねー。」
「よくねぇし。」
「そいえば、塾一緒だったの?」
「おう。居た。」
「おぉ。おめでとうっ。」
「なんでだよ…。」
なんで祝われなきゃなんねぇんだよ。意味分かんねぇよ…。
俺は嫌だった…のかな。

そして塾。今日もいんのかな。
「あっ!実月ぃー!」
やっぱいたし。
「優ー。」
「お、浅木。」
「えっ、何なに、お二人サンはお知り合いで…?」
「塾、一緒だから。」
「それは俺もですよねっ!?」
塾の中でも特に喋ったりするのは浅木瀬里とくらいだった。
「おい、瀬里っ!お前と実月いつの間にそんな関係に!?」
「中一後半くらいから。」
二人って仲良かったのかな。名前で呼んでたし。
「くっそぉ…。んなら、俺も優って呼ぶ!」
「はぁ?なんで井堀が。」
「いいだろ!優優優優優優優優!!」
「うぜぇ。連呼すんな。」
急になんなんだよ。マジで意味分かんねぇ。

今日の授業ももちろんはかどらなさそうだな。って早速来たし。
ちょ、ケシカス投げんな。小学生かっての。
「ッテメェ…。いいかげんにしろよ。」
「え、あ、ごめん。」
「ごめんって謝る暇があんのなら席戻って授業受けろや。」
「えー。しょうがないなーもうー。戻るよー。」
なにがしょうがないだ。お前が勝手に来たんだろ…。

なんとか授業終了。
終わってすぐ井堀と浅木がこっちへ来た。
「ねーねー、優ー。」
「なんだ。」
「俺のこと井堀じゃなくて新って呼んで?」
「僕のことは瀬里って言ってね。」
「はぁ?なんで。」
「そのほうがなんかいいじゃん。」
なにがいいんだよ…。
「んで、もし名字で呼んだら…一回につき一ハグねっ!」
「はぁ!?ふざけんなバカ!!」
「あ、今名前じゃなかったー。」
「瀬里じゃなくってバカって言った…。」
「バカ=名前でいったわけじゃねぇ!!」
「言い訳無用。」
「ハグハグーっ!」
コイツら抱きつきたいだけかよ。どしよ…。
「僕は左からで、新は右からね。」
「りょーかい!」
両側から!?無理無理。死ぬって!
「ちょ、まっ、やめろ!」
『無理。待てない。』
フワッと両側から抱きつかれて。香水をつけてるのか、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「優抱き心地いぃ~。」
「抱き枕にしたい…。」
「も、もうはなせぇぇええっ!」
二人はニヤニヤしながら俺を離した。
「優、顔真っ赤~!」
「タコみたい。」
「なっ!うるさい!もう帰る!」
「あはは!ばいばーい。」
あぁもうなんなんだ!!からかいやがって!意味分かんねぇよっ!!
顔あっつ…。
俺は帰ってすぐ咲に電話した。
「ほー。それはそれはなんともうらやましい。」
「うらやましがんなよ…。本当死ぬかと思った。」
「でも本当いいなぁ~。新君に瀬里君でしょ!?二人共モテるしさぁ。逆ハーレムじゃん!」
「逆ハーレムもなにも…。俺は嫌なんだけど!」
「まぁ、これからが楽しみだねぇ。がんばっ!じゃ、ねむ…いから、おや…すみぃ…。」
ブツッ。ツーツー…。
切りやがった。もうあれ完全に寝たな。
もういいや。早く色々済ませてねよっと。
あぁ、でも明日休みだし。ねむっ…。