ぎゅっと歩の体を抱きしめると、ほんの少し緊張していると気づく。
そして、自分が幸せになることに罪悪感を感じている歩が、愛しく思える。
「仁科さんもご両親が亡くなってからずっと、悲しい時間を過ごしているんだろうけど、歩だって大切なお父さんを亡くして、そして、人生があっという間に変えられて、つらい毎日を送ってきたんだもん。
そろそろ、幸せになってもいいと思うよ」
歩の肩に顔を埋めているせいで、私の声はくぐもって聞き取りにくいかもしれないけれど、何も言わずに聞いている歩の様子からは、私の想いはちゃんと届いているように感じる。
そして、歩は心の中で、私の言葉にどうにか折り合いをつけようとしているようにも思える。
「仁科さんは、相模主任が幸せにしてくれるし、相模主任は仁科さんが幸せにしてくれる。そして、歩のことは私がちゃんと幸せにしてあげるんだから、どんと任せてよ」
そんな私の言葉に反応して、ようやく歩は顔を上げた。
私は、ふふん、と軽く声をあげて、歩の驚いている顔を見つめる。
驚きと、戸惑い。
普段見慣れない、私が自信ありげに言う様子には、きっと違和感も感じているはず。
私だって、こうして自分の気持ちを揺れることなくはっきりと歩に言うなんて、予想外だ。
けれど、今言った自分の言葉をごまかそうとか、笑って曖昧にしようなんて思わない。
私はただ、歩にも自分は幸せだと思える日々を過ごして欲しいと思っているだけ。

