「父さんが、仁科さんの運命を変えてしまったんだよな……。仁科さんのお兄さんだってそうだ。今はイタリアで仕事をしているらしいけど。二人から、大切なご両親を奪って、ずっと俺は……申し訳なくてどうしようもない」
私を見て、ひとつひとつの言葉をゆっくりと言い聞かせるように呟く歩は、涙こそ流さないけれど、それでも泣いているようだ。
今までだって、ずっと悩んできたにちがいない。
そして、その重苦しい感情から逃げられない現実に、向き合ってきたに違いない。
歩がおこした事故ではないから、直接歩が背負う罪ではないけれど。
歩自身、自分が悪いわけではないと簡単に割り切れるものではないし、周囲だって、お父さんの罪を歩に重ねて冷たい感情を向けてきたはずだ。
「歩のお父さんのこと、仁科さんは知っているの?」
そっと、聞いてみると、歩は小さく首を横に振った。
「知らないと思う。仁科さんや被害者の方々をサポートしている弁護士の戸部先生は、仁科さんに伝えていないって言っていたからな」
「そう、だよね、やっぱり」
「ああ。俺のことも、仁科さんが仁科夫妻の娘だってことも、会社の上層部の数人しか知らないから、もしかしたら、相模だって、仁科さんのことは知らないかもな。
俺のことだって、相模には言ってない。あいつのことは親友だと思ってるけど、やたら口外しないようにって、入社の時に厳命されてるから、言えないな。これからも……」
私の肩に、こつん、と顔を乗せて、ふっと小さく息を吐いた歩は、気持ちを落ち着けるように何度か私の背中を撫でる。
「仁科さんには、幸せになって欲しいよ……」
吐き出したその言葉は、まるで祈っているかのように聞こえた。

