「配属された日の宴会の時、相模主任も、仁科さんのことを気にかけていたし、それから二人の仲が深まって……付き合い始めたのかも。
あれから私は経理部が忙しくなって、すぐに経理部に呼び戻されたから、彼女との接点はないんだよね。少なくとも、二人の噂なんて私の耳には入ってこないけど」
「一花はそういう情報に疎いからな。……おい、睨むなよ。俺はそういう一花が好きなんだからな。
で、相模だけど。正直、あいつが女に本気になるなんてしばらくなかったから、俺もよくわからないんだ」
「あ、大学時代の彼女に振られたとかいう……トラウマ?」
「そうだな。相模は過去のことは気にしてないって言ってるけど。心から大切にしている女の存在は、ここしばらくなかった。
……とりあえず、仁科さんを悲しませるような付き合いだけはして欲しくないんだ」
歩は、並んでリビングのラグに座っていた私の体をぐいっと引き寄せてその膝に横抱きにした。
「ど、どうしたの、突然」
びっくりする。
気づけば歩の胸に私の顔は押し付けられて、ぐぐっときつく抱きしめられている。
首に落とされた歩の吐息にとくんと鼓動も跳ねるし。
二人でいる時は、スキンシップ大好きな歩だから、こんなことはしょっちゅうだけど、今の歩は普段とはどこか違う気がする。
良くないことを聞かされそうな気がして緊張しながら、顔を上げて、間近にある歩の顔を見つめると、どこか苦しげで、考え込んでいる表情があった。
「どうかしたの?まさかとは思うけど、やっぱり仁科さんのことが気になる?」
重苦しい歩の様子に、からかい気味の声でそう聞いてみると、その場の雰囲気を明るく変えるどころか、更に暗い表情をまとった歩がふと呟いた。
「ああ、仁科さんのことが、気になって仕方がないんだ」

