その後結婚の準備を進める中で、私は会社を退職することを決めた。
「子供も早く欲しいし、仕事は辞めて、家のことをのんびりしてるよ」
週末、歩の家で夕食を済ませたあと、そんな話をとりとめなくしていた。
歩は、私が仕事を続けたいのならば応援すると言ってくれたけれど、家族というものを人一倍大切に思っている歩のために、私は会社を辞めて家庭に入ろうと決めた。
私が何かを望めば、歩はきっとそれを叶えてくれようと努力してくれるに違いない。
結婚後の私の進退も、私自身が決めたことを尊重してくれるはず。
それがわかっているだけに、更に慎重に、自分なりにしっかりと考えてみた。
そして、仕事が嫌だというわけでもなく、続けることに何の抵抗もない私には、共働きという選択肢もありだとも考えたけれど、退職しようと気持ちを固めた。
私の言葉を聞いた瞬間、複雑そうな顔をした歩だけれど、私の気持ちに迷いがなく、揺れていないとわかったのか、実はそれを歩も望んでいたのか。
歩は嬉しそうに表情を崩すと、何度も頷いた。
「わかった。一花が幸せに生活できるように、俺は頑張って働くか」
「うん。年に一回は一緒に旅行にでも行きたいね」
「ああ。相模に設計してもらって、家も建てよう」
「うんっ。相模主任に設計してもらえたら、それって絶対自慢できるよね。なんせ『建築界の至宝』だもんね」
くすくす笑いながら、将来、相模主任が設計してくれた家に住むことができたらいいなあと、本気で考える。
家族や友達にも自慢できるけど、設計料ってどのくらい必要なんだろう。
歩が同期だから、同期割引とか、ないのかな。
それ以前に、家を建てるなら、土地から探さなきゃ……。
「一花?妄想はそのくらいにしておけよ」
「え?あ、そ、そうだね。ふふっ」
呆れたような歩の声に、照れた笑いを返すと、次第に歩の表情が真面目な顔になるのに気づいた。

