『一花も共に背負っていくことになる歩くんの悲しい過去を超えるくらい、一花を愛してくれればいい。被害者の方への謝罪の気持ちも忘れずに、一花を大切にしてくれればそれでいい』

愛する人を捨てて、つらい未来から自分だけ逃げ出すような娘に育てた覚えはない、と言って、私の覚悟を探る両親からは、私と歩の結婚を反対する様子はまるで感じられなかった。

弁護士という仕事柄、色々な人生を背負った人々を目の当たりにしてきたはずの父の言葉には重みもあって、歩も気持ちを引き締めて、何度も頷いていた。

私はそれまでも、甘やかされてきたわけではないし、愛情をたくさんかけて育ててくれた両親に、感謝の気持ちはもちろん持っていたけれど。

歩に頭を下げて「一花をよろしくお願いします」と迷いなくはっきりと言った両親を、今までになく誇らしく思った。

歩は、そんな両親を前に、ほっとしたように緊張を解き、

「必ず、僕が一花さんを幸せにします」

そう言って口元を震わせていた。

いつも落ち着いていて、整った顔を崩すことなんて滅多にない歩の感極まった顔は貴重。

それが私を手に入れたいがためのものだとしたら尚更だ。

両親と歩が向かい合い、それなりに緊張している雰囲気の中、私は手元に置いていたカバンから慌ててスマホを取り出した。

カシャ。

その場の空気を読まない場違いな音。

「……一花?」

はっと振り返った歩は、私の手元のスマホを見ると、瞬時に私が歩の顔をスマホで撮ったと気づいたようで。

「撮った、よな?」

呆れた表情で呟いた。