ちっ、と舌打ちしたかと思うと、眉間のしわも深くなる。

歩がこの一年間、ううん、出会ってからずっと見てきた歩の姿とはかけ離れた、感情を露わにさせたその様子に、驚き見入ってしまう。

私が歩との別れを告げた時でさえ、ここまでの荒々しい思いを見せなかったのに。

それが私にはとても悲しくて、苦しくて、歩にとっての私って、その程度のものだったのかと、絶望的な想いに囚われたのに。

「一花が俺から離れた時に、すぐにでもお前を取り戻したかった。
たとえ一晩でも離れて過ごすことにお互いが苦しむとわかっていても、それができなくて……悪かった。
心から愛している女を悲しませて、苦しめて、どうしようもない男だよな、俺は」

切なげに息を吐き、私の肩に顔を埋めながら呟く歩を責めるなんて、できない。

あの日、私を取り戻してくれなくても、そして、一年間という長い間、私とは別の時間を過ごしていたとしても。

私は歩を責めたり怒りを向けたりするなんて、できない。

だって、わかっているから。

お父さんが亡くなってからずっと、苦しみ、足掻き、どうなるかわからない未来に絶望し、それでも生きていかなければならない現実と向き合っていたってことを、私は知っているから。

「一花よりも、会社への恩義を優先してしまって……悪かった」

ぎゅっと私を抱きしめて、そして、きっと泣いているに違いない声が耳元に落とされる。

歩の涙が私の首筋を濡らす。

それは私が感じる、初めての歩の涙だ。