ほどよいあとさき



私の頬をすっと撫でながら、苦笑している歩。

どこか申し訳なさそうな表情にも見える。

「今現在、持株数が多い株主の上位は、片桐の創始者である片野家と桐島家、金融関係。そして、相模恭汰を愛してやまない個人投資家だ。夏乃の父親も今でもかなりの数の株式を保有してはいるけれど、その影響力に怯えることはないんだ」

「うそ……。夏乃さんのお父さん……いっぱい株を持ってるから、歩の将来と会社の経営を考えて、私に……」

「ああ。片桐の未来のために、なんて戯言投げつけて、夏乃は一花を脅したんだろ?」

「あ……」

ごまかすことを決して許さないとでもいうような、歩の語気に気圧される。

普段の飄々とした軽さはどこにも見当たらなくて、その瞳には嫌悪と憎悪。

その感情の矛先は夏乃さんに向けられているとすぐにわかる。

「夏乃の父親が、たまたま片桐の創始者二人の大学時代の同級生だっただけで、株式上場の時に多くの株式を引き受けたんだ。
その後、片桐が社会的に大きな力を持つ大企業に成長して、夏乃のお父さんは株式の配当によって懐も豊かになった。
で、片桐に影響力を持ち、娘の夏乃を片桐に入社させるまでは俺には関係のないことだけど。問題は夏乃だ。
俺が夏乃と結婚しなければ父親に頼んで株式を海外の投資家に売却するとかなんとか脅しやがって」