「夏乃の実家が保有しているわが社の株式の多くを、相模を応援している個人株主が買い取ったんだ。だから、もう大丈夫だ」
「え……。個人株主?」
「ああ。夏乃の父親が、これ以上娘の我儘には付き合ってられないと言って、スムーズにな」
私の体を抱き寄せて、安堵の息を吐く歩は、
「夏乃のことを、猫かわいがりしてはいても、さすが大会社の経営者だからな。物事の分別はちゃんとわきまえていたようだ」
と呟いた。
「あとは、夏乃が結婚して会社を寿退職してくれるのを待つだけなんだけど。
まあ、あれだけの極上なオトコに気に入られてるんだ。アメリカにだってついていくだろう」
「あ、あの……?」
「アメリカじゃなかったかな、ドイツだったかな?……どっちでもいいか。
俺と一花が穏やかに結婚生活を始められるなら、どっちでも関係ないか」
私のことなど眼中にないかのように、気になる言葉を次々と落としていく歩。
この家に入ってからずっと疑問符ばかりが私の周りに溢れていて、そのどれ一つとして解決するようには見えない。
夏乃さんの物がこの部屋からなくなっているのはどうしてなのか、から始まって、今は結婚やらアメリカやらって言葉も聞かされている。
「歩、お願いだから、私の頭でもちゃんと理解できるように順序立てて言って欲しいんだけど」
頼み込むように、そう呟いた私に、はっと視線を落とした歩は、それまでひとりで何やら考えていたことに気づいたのか、申し訳なさそうに私に小さく笑った。

