ほどよいあとさき



私のお腹に置かれている歩の手に、私の手をこわごわと乗せた。

別れた日から、ずっと触れたいと願っていた温かさに、私の体はじんわりと緩んでいくようだ。

歩と私、どちらの震えなのかわからないけれど、微かなそれは、二人の心の中をそのまま表しているように、不安定。

そんな不安定な状況に否応なく気づいた私の声は、どうしても小さい。

「あの頃から、状況は何も変わってないのに、無理だよ……。ここに、歩の子供がやってくるなんて、無理」

涙声になった。

唇をきゅっと結んで堪えようとしても、頬に感じる温かさはやはり涙で、意思とは関係なく落ちてくる。

別れたあと散々泣いて、体中の水分をしぼり取られた感覚の中、もう泣かないでいようと誓ったけれど、こうして歩と近い距離で、そして体温を感じていると、その誓いはなんの役にも立っていない。

歩の手をぎゅっと握り、どうしようもなく立ち尽くしていると、私の頭に、そっと顎をのせた歩が大きく息を吐いた。

「状況は、変わったんだよ。というか、ようやく変えることができたんだ」

「え?」

「まあ、愛の力は偉大だって言いたいところだけど。今回ほど、『相模恭汰』っていう名前の偉大さに感謝したことはなかったな」

思い返すように呟く声と、ほんの少しの笑い。

歩の様子が理解できなくて、私はそっと体を動かした。

そんな私の動きに反応して、歩は私の頭から体を離すと、にやりとした笑顔を私に向けた。