ほどよいあとさき



歩自身、お父さんという存在は愛すべきものでもあり、自分の人生を変えた重苦しい存在でもある。

それでも、どんなに悲しい存在であっても、歩にとっては、大切な家族。

たとえお父さんが引き起こした事故によって、歩の家族が重く、逃げられない運命を抱えてしまったとしても、歩にとっては大切なお父さんであることに変わりはない。

お父さんが起こした事故に苦しい言葉を吐くことはあっても、お父さんを恨むような言葉を口にしたことはないから。

歩は、今でもお父さんが大好きだし、早く自分もお父さんになりたいと思っているに違いない。

私が歩に『俺の女にならないか』と言われた後に聞かされた歩の背負っているもの。

それが、歩のお父さんが引き起こした交通事故だった。

あの日の海辺で、その過去の悲しい出来事を抱えている歩ごと、私は受け止めたんだ。

歩との付き合いが始まり、二人の関係を深めるにつれて、歩が望む子供を、産みたいと何度も思って、そのためにも早く結婚したいな、とも考えていた。

そのためには乗り越えなければならない壁はいくつもあるけれど、当時の私は漠然とした結婚式への夢を現実のものとするために色々と考えることが楽しかった。

歩との幸せな未来しか考えられなかったけれど、結局、望む未来はやってこなかった。

夏乃さんの存在によって。

望む未来は、叶わぬ未来へと変わってしまった。